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2009-05-29 01:41 | カテゴリ:始まる前のうんたら
「神」という存在があるとすれば、それは人自身なのかもしれない。

いや、「神」ですら人の造形物にすぎぬとすれば、人とは一体何なのだろう。


















「申し訳ありません、レザシア様。」

そう言ってその男は私の首に刃を当てた。

「いちいち謝んじゃないわよ。」

それを聞いた男は目を伏せ、黙ってしまった。
何謝ってんのよ、気休めにも慰めにもなっちゃいないわよ。さっきから人のこと見下すような眼しちゃってさ。ついこないだまで親父の目ぇ気にして媚び売ってたってのにさ。
思うだけで口には出さず、私はそいつを睨んだ。
だが、そいつの表情は変わらない。依然として見下すような眼のままだ。
あぁ、頭領の娘って立場を奪われた私はこんなにも、弱いのか。
人一人動かす権力も力もない、のか。

私は今処刑台の上に座っている。

理由は「里を出たから」だそうで。
それだけならまだ擁護のしようがあるのだろうが、出るまでにお仲間を5,6人殺っちまったのが問題だったらしい。
里内での人殺しは当然重罪だ。それは理解してる。
だけど私はどうしても外の世界が見たかった。殺しの技術なんて必要としない世界が見たかった。そして里の外にそれがあるのだと信じていた。
実際は、その逆だったけど。
結局はどこも戦い、戦い、戦い。私が求めるような世界はどこにもありゃしなかった。
まあ、外にそんなものがあるような根拠は、今思えばどこにもなかったんだけれど。
私はただただ人を殺す技術を学ぶより、外の世界に行って人と生きたかっただけだ。
それは、許されない事だったのだろうか。もしくは、もとよりあり得ないことだったのか。
私は、間違っていたのか。

「これよりレザシア=サロメの公開処刑を執り行う。」

親父の声が聞こえた。娘の処刑にも立ち会うなんて、あいつ本当に人間か?
それにしても、あぁ、これで私の舞台も幕か。やっぱりあんなことするんじゃなかったかな。でもこのまま生きてても、しょうがないだろうしな・・・。

「なにか言い残す事はありますか?」

さっきの男に訊かれた。「死にたくない」とか言っても聞きゃしないだろうに、人の悪い。
と、それに反応したと同時にいつの間にか集まっていたギャラリーの視線に気づいた。

なにこれ。

なんで皆私を見下してるの?

なんで皆私を排斥してるの?

私そんなに悪い事した?

里から出たかっただけなのに?

なんでそれだけの願いが聞き入れられないの?おかしくない?

皆なんでそれに疑問を持たないの?

あんたら本当に人間?

いや、それはおかしいのか。

一つの集団が多数派と少数派にわかれていたら普通、正常なのは多数派となるはず。

つまり、そうか、彼らが人間で───

私ハ人間ジャナイトイウノカ。

イヤ、ソレハ極論カ。マア私ガ異端デアルコトニ変ワリハナイガ。

マアソレモ私ニハ些カ関係ノナイコトダガ。

サテ、幕引キハマダダロウカ?舞台ノオワリハ淡白デナケレバ、ずるずる引キヅッテ終ワリヲ迎エルノハヤハリ美シクナイカラナ。ソレトモ、イヤ、ヤハリ───

「ないようですね、流石潔い、では───。」

「マダ幕ヲ降ロスニハ、早スギルヨウダ。」














夕日に映える血の海に一つの長い影が落ちる。既に生きている者はおらず、そこにはソレだけが立っていた。

「災いの連鎖は断ち切られるのが道理。偶然今日がその日だったようだなぁ。いや、アンタらも運が無い。」

ソレは言いながら、手に持ったナイフを見て微笑う。

「そう、まだ幕引きには早すぎる。というより、始まってすらない劇の幕を降ろす事なんて不可能だったんだろうさ。『台本は書かれ、役者は揃い、観客は集まった。』その時点で逃げ場なんてどこにもありはしなかったのさ。俺にも、アンタらにも。」

既に動かぬ者達にソレは話し続ける。返り血のせいで頬には血の涙が流れているように見えた。

「さて、鮮血(赤い花)舞う悪夢(喜劇)の始まりといきたいところだが・・・、いかんせん台本が無い。役者も今のところ俺だけなんだが、観客共々すぐに集まるだろうからそこは問題はないだろう。全アドリブもいいかもしれないが・・・、やはりまずは脚本家を見つけなくちゃあ始まらないか。折角の良い星(劇場)だ、色(雰囲気)もそれに相応しい極上のものへと塗り替えなければ勿体無い。まあ、〆切などまだ決まっていないわけだし、そこは気長にやるとするか。」

言った後、ソレはいなくなった。
日が沈んだ。血の海の色が黒く変わる。


















人は何故自らの造形物に縋るのだろう。

醜いとは思わないのだろうか、恥ずかしくはないのだろうか。
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